特集 (海外)

 W杯で日本人サポーターが行ったスタジアムのゴミ拾いが世界で称賛されましたが、「掃除」などの文化に関する日本と海外の意識の違いは興味深いです。
 日本を美しくする会では、24年前から海外の掃除普及に力を入れてきました。しかし情報が必ずしも広く共有されていないことや一層の海外展開を図りたいことから、特集を組みました。第1回はイタリアです。

イタリア通信(1)

イタリア マニセラ・ロサリオ

鍵山掃除道との出会い

 2012年(平成24)4月、私は西欧のマネージャーグループと岐阜県恵那市の東海神栄電子工業を訪問しました。田中義人社長が、自社と日本社会で行っている清掃活動と企業家鍵山秀三郎氏などについて話されました。
 掃除を経営の手段として、しかもそれを完璧に展開するのを見たのは初めてで、イタリアの5Sとはまったく違うことに大きな感銘を受けました。
 その時以来、私は鍵山氏の本を、イタリア語に翻訳し始めました。2013年に1冊目を出すことができ、これまでに4冊出版しました。私は仕事で日本に行く際に鍵山氏に何回もお会いしました。2015年秋は、新宿歌舞伎町の清掃に参加しました。

鍵山さんらのイタリア訪問

 鍵山さんらを3回イタリアにお招きしました。鍵山さんらの滞在中は、テレビやラジオ・新聞などで取り上げられ、話題になりました(新聞記事)。

1回目(2013.5.21-23) 鍵山、田中夫妻:4名  1冊目出版記念 ミラノ、ヴィチェンツァ、ブレッシャで講演

2回目(2014.5.27-31) 鍵山、亀井:2名    ヴィチェンツァ、ブレッシャの大学・刑務所で講演、掃除

3回目(2015.10.26-28) 田中夫妻、清水:3名  ブレッシャとフォルリの大学他で講演、ブレッシャで掃除

○第1回訪問 田中義人氏報告

ミラノでの講演会
 2012年マニセラさんが私の会社を訪問したとき、『一日一話』を渡しました。マニセラさんは早々に読み、イタリアでの翻訳出版の話が進みました。そして翌年、出版記念講演会開催にあたり、イタリア訪問を要請されました。
 鍵山夫妻・田中夫妻が出張しました。ミラノ中心街の出版社主催の会場に向かうと、すでにビジネスマンや経営者約30人が集まっていました。翻訳出版は、経営や経済の出版をしているイタリアの大手でした。この本はイタリアでも過去に例のない特徴的なものだったそうです。
 相談役が講演し、田中が事例発表しました。その後、多くの質問が出、相談役は的確に答えました。書籍販売では、1冊2400円の本が25冊売れました。相談役は、一冊一冊丁寧にサインしました。

ブレッシャ大学での講演会
 大学教授、講師、経営者など150人が集まりました。ある会社社長は講演に感動し、一晩で本を読み、翌朝幹部に読ませたいからと20冊注文し、すぐに社員と掃除を始めるとともに、会社玄関に「一日一話」をボードに書き出して、全員の目に留まるようにされました。

「ふじ会」による歓迎会
 マニセラさん会長の日伊文化交流会で、メンバーは全員日本文化を学ぼうとするイタリア人です。手作りのケーキや料理が出され、ワインを飲みながら楽しいひと時を過ごしました。

○第2回訪問 亀井民治氏報告

 2冊目の翻訳本『ひとつ拾えば、ひとつだけきれいになる』出版記念で訪問しました。

ヴィチェンツァのビジネス学校
 大学教授、経営者、管理職など約150名の参加でした。私の演題は「掃除の実践をベースにした5Sが会社を強くする」で、イタリアでは「5S」はよく知られていました。「どうして掃除を素手でするのか」などの質問が出ました。出版本へのサインを求める人の列ができました。

ブレッシャ市の大学と刑務所
 ブレッシャ大学では、200名が参加され、前日同様大きな反響がありました。ブレッシャ刑務所でも講演しました。この刑務所の教育担当者が、前年出版された『一日一話』を読んで感動し、マニセラさんに鍵山相談役の講演を手紙でお願いしたのです。囚人15名に警護の所員や報道関係者を加えた計約25名が参加。囚人の多くは、入れ墨をしていました。
 相談役は話しかけました。「あなた方がここにいることを喜んでいる人がいますか。いないはずです。人は苦しみに遇うと自暴自棄になります。そして、その苦しみに耐えられない人が人を苦しめます。決して人のせいにしたり、人を恨んだり憎んだりしないことです」
 相談役は、質問する囚人の席まで足を運び、両手でお礼の握手を求めました。すると、囚人の皆さんは感激し、すべての囚人が相談役に握手を求めて集まってきました。
 ブレッシャでは、掃除実習も行いました。参加者はみな、心から私たちを歓迎され、日本式「掃除道」を素直に学ぼうとする方たちばかりでした。とても感激しました。
 2回目のイタリアでしたが、かなり「鍵山掃除道」への理解が進んでいるように感じました。それは、マニセラさんの人望とあくなき日本文化への向学心が大きな力だろうと思いました。
 イタリア人は明るくて人懐っこい人ばかりです。ほとんどのイタリア人が親日です。滞在中、マニセラさんに大変お世話になりました。グラッツェ!

(左から)鍵山、マニセラ、教育担当、亀井

 ふじ会(www.fujikai.it)会長の私マニセラと会員は、その後もイタリアで多くの掃除活動を企画しました。学校や協会、企業などから、しばしば掃除道の講演を頼まれました。今もイタリア各地で街路や学校、森林や川床の大量のプラスティックゴミ等の清掃がされています。グループやボランティアのお陰もあります。
 私は、鍵山さんの本の出版や活動の普及を通して、イタリアで「掃除道」の趣旨を伝え、社会や企業での清掃の実証的な効果を広めたいと活動しています。

マニセラさん(74)のこと (編集室)

 1947年、南イタリアのサレルノ県生まれ、ブレッシャ市在住、家族は鹿児島県出身の日本人の奥様とお子さん2人。大学で日本語や日本の文学、歴史について勉強し、その後通訳と翻訳の仕事をし、日本文化や企業活動の記事や本を執筆してきました。
 そのかたわら、イタリア及びヨーロッパの企業と日本企業の仲介者として、西欧の企業家の日本への学習旅行を企画したり、ボランティア、特にふじ会の活動を続けています。  (つづく)